「町医日碌」と題して町医者の日記を随時掲載しております。
アニサキス症は内科医であれば誰でも知っている病気ですが、内視鏡検査と治療を専門にする我々消化器内科医でも実際に遭遇する頻度はあまり多くありません。私も内視鏡検査を始めて約30年ですが10年目に初めて経験し、今回開業して半年で2例目を経験しました。(勤務していた病院全体では年間に数例の症例がありました)
さて、アニサキスについて成書より引用します。
「病原体 アニサキス類の成虫は、クジラやイルカ、又はアザラシなどの海産哺乳類の胃に寄生している。虫卵は糞便とともに海中に放出され、オキアミなどの甲殻類を中間宿主として第3期幼虫に発育する。幼虫を宿すオキアミが多くの種類の魚やイカに摂食されると、新しい宿主の体内で第3期幼虫のまま留まって寄生を続けるそしてこれらが本来の終宿主である海産哺乳類に摂食されると、幼虫は胃内で成虫となり生活史は完結する。
ところが、本来の宿主ではないヒトがこれらの海産魚やイカを生食した場合、幼虫は生きたまま摂取され、胃壁や腸壁に侵入するところとなってアニサキス症の病原となる。この幼虫はヒトの体内で寄生し続けることはできない。
わが国で病原として通常見出されているアニサキス類の幼虫の体長は11mm~37mmであり十分に肉眼で見える大きさで、わが国の近海産の魚とイカを調査したところ、150種以上にものぼる非常に広範囲の魚種から見出されている。」
というわけで、アニサキスを補食した生魚を運悪く刺身やお寿司で食べてしまうと発症する可能性があるのですが、アニサキスが胃の粘膜に侵入すると胃のあたりに痛みが生じ、その程度も、鈍い胃痛みが持続する場合から、動けないくらいのかなりの激痛に襲われることまであります。
そして腹痛で受診した患者さんのお話からアニサキスを疑うと内視鏡検査を行い、みつけましたら鉗子を用いて捕獲(逮捕?)してつまみだします。通常は除去すると数時間で症状が消失します。
さらに運が悪く胃を超えて小腸に到達すると腸閉塞やその他の疾患と間違えられ緊急開腹手術をされてしまうこともあります。
私の患者さんは1例目はサケ、2例目の方はサンマの刺身が原因でしたが、サバでもイカでもマグロでも海の魚は殆ど全て原因になり得ます。そこで予防法ですが、生魚を食べなければ絶対に大丈夫です。
が、これでは身も蓋もありませんよね。また60度以上で1分以上加熱すると死にますが、そんな刺身や寿司はまずくて食べられませんね。ただ、幸いなことにアニサキスは低温にも弱く、一度冷凍処理をして解凍した魚はほぼ危険はないということです。なので、たいていの回転寿司屋さんは一度冷凍しているから大丈夫ですが、朝取れた魚を目の前でさばいてくれるような場合は要注意ということになります。
しかし我々内視鏡医でもアニサキスを心配しながら刺身や寿司は食べていません。
生魚を食後にひどい胃痛を感じた場合には早めに内視鏡医の居るクリニックを受診していただくことが大事だと思います。
参考 漫画 あるアニサキスの一生 https://ameblo.jp/hirorinnew/entry-11221162342.html
著者:みむら内科クリニック 院長 三村 純(みむら じゅん)