「町医日碌」と題して町医者の日記を随時掲載しております。
高校生の頃に井上靖の小説「天平の甍」を読んで、いたく感動したわたしは 奈良の唐招提寺にある鑑真和上像をいつか参拝したいと思っておりましたが、この国宝に指定されているお像は開山忌という和上の命日を挟む特別な3日間(例年6月5日〜7日)しか公開されません。
なので開山忌が土日と重なった年にお参りできたのは高校卒業後20年以上たっておりました。
幸いにも梅雨の晴れ間の好天の日に訪れることができましたが唐招提寺は一歩境内に入ると法隆寺や東大寺のような他の大伽藍とは違う雰囲気に、なんか異国の地のような気がしました。
鑑真和上像は御影堂というお堂に奉安(安置)されており30分ほど並んで入ることができました。
このお像は日本の彫刻史上の最高傑作とされており事前に読んだ解説書には、和上その人がそこに居る気になると書かれておりました。
信心の浅いわたしはほんまかいな、と思っていたのですが直に拝見しましたら本当に優しいお顔のお坊さんがそこに座っておられる、今にも口を開きそうな雰囲気に深く感激し、いつまでもいつまでも眺めていたくなった記憶があります。
そしてお像を取り囲む障壁画は日本画家の巨匠東山魁夷が和上の生涯を丹念に研究し、日本と中国で取材を重ね10年の歳月をかけて作成、奉納したものです。
参拝時のわたしはお像にばかり夢中になって、障壁画はお像の前の間にあった海の場面(濤声)しか印象に残っていなかったのですが後日、制作の過程を知って、あの時もっとよくみておけば良かったと思っておりました。
すると、なんということでしょう。御影堂の修理にあたって障壁画が全て一堂に会して観られる展覧会がここ神戸にやって来たのです。
コロナ禍で閉塞感の続く日々ですが5月30日に神戸市立博物館へ行ってきました。
日曜でしたが早めに行きましたら、あまり混でおらずじっくり鑑賞することができました。
わたしが覚えていたのは海の風景だけでしたが、その海の場面もいくつかあり、深山幽谷の深い森、山にかかる霧、音が聞こえてきそうな滝の場面、さらには鑑真和上の生まれ故郷を描いた水墨画まで、こんなにたくさんあったんやと美しい自然の描写にただただ圧倒されました。
このような機会はこの先何度もないと思われます。残念ながら6月9日で閉幕とあと10日くらいしかありませんが興味のある方は是非お出かけください。
https://www.kobecitymuseum.jp/exhibition/detail?exhibition=367
著者:みむら内科クリニック 院長 三村 純(みむら じゅん)