「町医日碌」と題して町医者の日記を随時掲載しております。
8月6日(火)やや寝不足ながら午前4時頃に起床。
この日の日出は4時40分、下界は猛暑ながら3000mの世界は10度に満たない気温でぶるぶる震えながらご来光を待ちました。
わらじ館のメリットは小屋が東向きなので居ながらにしてご来光を拝めるのです。そして徐々に明るくなってゆく空のなか雲間に日輪が姿を現した時、やはり厳粛な気持ちになったのでした。
前夜の宿泊者の半分以上は深夜に出発していて朝食をゆっくりいただいてから6時前に山頂目指して出発しました。
富士山は3000mを越えてからさらに傾斜は急になってゆきます。
天気は今日も快晴、清々しい冷気のなか、「六根清浄大祓(ろっこんしょうじょうおおはらえ)」と唱えながら高度を上げてゆきました。そして8時半についに御殿場ルート頂上に到達したのであります。目の前には山頂の巨大な火口が広がります。
山頂火口はおよそ2000年間、つまり有史以来噴火していないのですが地球の凄まじいパワーを実感できました。
火口の淵を歩き浅間大社奥宮へ参拝しました。もちろん日本一高い場所にある神社です。
参拝は2回目ですが、また来られるかどうかわかりませんので万感の思いを込めて二礼二拍手一礼をいたしまして、ひいたおみくじは「吉」でした。そしていよいよ日本最高峰の頂上へ馬の背と呼ばれる急斜面を登ります、実はここが富士山で一番辛い登りで滑落しそうになりながら上り詰め、3776mの頂きへ到達したのであります。
当然ながらここより高い場所は日本に存在しない、そんな達成感を筆者もまた感じました。
山頂からは火口を時計回りに少し進みまして北側に出たところ次なる絶景を目にすることができたのです。
前2回もお天気は良かったのですが雲海が広がり遠くはかすんでなにも見えなかったのですがこの日は空気も澄んで雲は殆どなく、八ヶ岳、南アルプス、中央アルプス、そして北アルプスは槍ヶ岳からさらに北の剣岳まで一望の下に眺めることができました。以前に登った山々から見えた富士山から逆にみられたこの絶景を目の当たりに出来たことはそれまでの疲れが吹き飛ぶ至福の時間でありました。
最高の絶景に名残は尽きないのですが下山しなければなりません。
御殿場ルート下山の醍醐味は大砂走りという火山灰の大地を一気に駆け下りることができることでして、他のルートにはない楽しみがあるのです。江戸時代1707年、宝永大噴火でできた火口は山頂火口よりも巨大で、その横を辿りながらの下山は底知れぬ地球のパワーをもう一度感じさせてくれました。耳や鼻の中まで土埃にまみれながらの下山はあっという間に終わり午後3時には登山口に降りて来ました。
御殿場ルートの利点は前述しましたように下山後着替えて自分の車ですぐに出発できることにありまして、他のルートでは駐車場までのシャトルバスに混雑時は1時間待ちがざらにあるのです。
この日は麓の温泉に宿を取りまして夕陽に染まる富士を眺めて露天風呂につかり、生ビールでのどを潤す最高の、至福の時間にひたりました。
著者:みむら内科クリニック 院長 三村 純(みむら じゅん)